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「フクシマを歩いて」 徐京植


本書は韓国の新聞「ハンギョレ」に掲載された文章を中心に纏めたエッセイ集。およそ3分の1が東日本大震災に関連するエッセイ。後の3分の2は韓国、日本、世界の主に時事的な問題を取り上げている。

本書でも「お墓に避難します」が取り上げられている。著者はこの記事をゼミの教材にした。ひとりの学生が「遺書は終始『された』という受け身で書かれているが、『お墓に避難します』だけ自分の意志表明になっている」と指摘した。93年の人生を受け身で生きてきた一人の女性が、人生の最後に自己の意志を表明し、尊厳を保って人生の終止符を打ったのであると著者は述べている。

大日本帝国の周縁であった東北地方は戦後、ふたたび見捨てられた。高度成長政策の結果、第一次産業は破壊され、若い働き手は都市に流出して、この地方は過疎化された。その苦境につけ込むように、原子力発電所が次々に建てられたのである。国から与えられる交付金によって一時は潤ったかにみえたが、やがて薬物中毒のような原発依存体質に骨まで冒されることになった。その原発が致命的な大事故を起こした時、電力を享受してきた大企業や都市住民ではなく、東北地方という国内植民地の一般民衆が理不尽な被害を強いられているのだ。この九十三歳のおばあさんの死がそのことを象徴している。彼女の死は、日本という国の近代史に対するひとつの総括である。

本書では、2008年末のイスラエル軍によるガザ地区への軍事攻撃が取り上げられている。何度も停戦協定を結ぶが、ガザ地区への軍事攻撃は終わることがない。ホロコーストの犠牲者である「ユダヤ人」と「イスラエル国家」は厳密に区別すべき概念だと著者は述べている。パレスチナ自治政府が国連で「オブザーバー国家」に格上げされても、安全保障理事会でアメリカが反対する限り、国家として承認されない。サイードはイスラエルによるヨルダン川西岸とガザ地区の占領は、20世紀から21世紀におけるもっとも長い軍事占領で、その前に最も長い占領は日本による朝鮮半島占領だと指摘している。