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「脱原子力国家への道」 吉岡斉


福島原発事故の後、TVで吉岡さんの姿を見たとき、「この人誰?」というほど管理人が記憶していた吉岡さんとは違う容貌だった。といっても管理人が吉岡さんを見たのは30年位前の物理学会だったか科学史学会の会場だったのだが。

本書は福島原発事故後に書かれた著者の最初の著作ということだ。本の帯にあるとおり、本書は福島原発事故についての全体像が描かれていないし、事故の詳細な分析を行っているわけでもない。脱原子力国家を進めるための技術的というよりは行政的な指針を提供するという感じだ。著者は内閣府原子力委員会専門委員、東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会委員などを歴任している。

本書は一応書き下ろしとなっているが、各章で内容が重複しているところがみられる。エピローグには「この一年あまりの間にさまざまなメディアで書いたり話したりしたことの多くが随所で活用されている」とある。本書の脱原子力国家へのシナリオは、民主党政権のシナリオに近いような気がする。電力不足の場合は必要な分だけ原子力発電所を稼働させ、高速増殖炉は研究炉として残し、大学では原子力工学の人材を確保する必要がある等々。管理人が気になるのは、脱原発後の核燃料や高レベル廃棄物の最終処分に関して具体案がないこと。地層処分や原子力発電所敷地内に半永久的に貯蔵というのは問題の先送りでしかないと思われる。この点について、著者は最も重要な課題として、政府が取り組んでいく必要があると述べているだけである。

吉岡さんの著作を読むのは「テクノトピアをこえて」以来。著者の考えが随分変わったような気がする。本書を読んでいて「傍観者的」というか「他人ごとだなあ」と思うことがたびたびあった。チェルノブイリ原発事故のようなことは日本では起こらないと思っていたと著者は正直に書いているが、原子力発電の安全性に対して著者はあまり関心がなかったようだ。著者は高木仁三郎さんとは方向性が違う。広重徹さんが生きていたらどう思うだろうか。