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「アイルランド紀行」 栩木伸明


実際の旅にも空想の旅にも使える書と帯にある。語学が苦手な管理人にとって本書を読んでアイルランドへ行こうという気は起きないけれども空想の旅なら可能だ。アイルランドへいきたしと思えどもアイルランドはあまりに遠しといったところ。せめて本を読んでケルトの不思議な国を空想しよう思う。

著者の「声色使いの詩人たち」「アイルランドモノ語り」に続いて管理人が読んだ三冊目の著作。近藤耕人さんの「アイルランド幻想紀行」と印象が被るところがあったけれども、アイルランドは魅力に満ちた国という著者の思いは伝わってくる。管理人は翻訳でジョイスの「ユリシーズ」を読んでさっぱりその面白さが分からず、ダブリンはどんな街なのだろうと思っただけだった。ブリティッシュ・ロックは聴いても、ヴァン・モリソンやU2は聴いたことがなかった。著者の著作を読んで、U2は聴こうかと思ったが、管理人は鉛の飛行船のほうが自分の好みだと感じた。北アイルランド紛争は以前のような爆弾テロは無くなっているが解決はしていない。

工場のてっぺんにある<庶民の王座>からは町の全貌が見渡せるものの、正直に言えば、ダブリンに目を見張るほどの建築はない。千年の都とはいえ、中世の街並みと城郭が見事に残るエディンバラや、十八世紀のジョージアン(新古典主義)様式の建築がごっそり現役として残るバースの町と較べたら、ダブリンの有形文化財など物の数ではない。中世の城壁はほとんど跡をとどめていないし、古い教会や修道院はおしなべて破壊された歴史を持ち、ジョージアン建築の邸宅が建ち並ぶ街区はあちこちに残っているものの、大半がスラム化した過去を背負っている。この町で見られる古いモノはたいてい、現実的にも比喩的にも破損しているから、思いのほか歴史がみえにくのだ。
ダブリンに本当に興味があるなら、高みの見物としゃれこむ王様の目線を捨てて、<ダーティー・オールド・タウン>へ下りていかなければならない。町のエッセンスは壊れた細部に宿っているからである。壊れて輝くかけらに出くわしたら、ていねいに拾い上げて、元の形に復元してやるのがいい。あるいは、欠けた部分を器用仕事ででっちあげてやるのも悪くない。ダブリン歩きの醍醐味は、目に見えたり見えなかったりするかけら拾いと修復のおもしろさにある。