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「猫のお化けは怖くない」 武田花


「猫のお化けは怖くない」という不思議な書名は、著者が知人たちとのお酒の席で「人間のお化けは出ないでほしいわ。でも、猫のお化けなら怖くないから、しょっちゅう出来てもらいたい」と言ったのがきっかけ。

本書には亡くなった愛猫くもの思い出が多く語られている。そんな中には不思議な経験もあったそうだ。あるお寺で団扇太鼓の音がしてきて、くもが怯えて猫用バックの中に潜り込む。だんだん近づいて来た音が突然聞こえなくなり、著者が山門を下って探してみたがそれらしい人影がいなかった(「音」)。 廃業したばかりの旅館が立ち並ぶ坂道を下っているとき「おい、おい」と人の声がした。あたりを見渡しても人の姿はなかった(「声」)。母親のお化けがでたときの話は怖すぎて書けないとあった。

「おい、こっちこっち」「ねえ、ねえ」
知らない土地をうろうろしていると、ふいに何かが私を呼び止める。「ハナちゃん」と、名前を呼ばれることもある。一瞬、死んだ猫のくもかと思い、天を仰ぐ。でも、猫とは声が違う。大抵、低く、ほそぼそした人間の男の声だ。あたりを憚るように小さく囁きかけてきたり、いやに威張りくさった口調だったり。
空耳だ幻聴だと、人は言う。私は呆けてしまったのだろうか。でも、物や景色に呼ばれて、それで写真が撮れれば、言うことはない。なにより、周りが賑やかになる。

昔、管理人が剣岳の登ったときに不思議な音を聞いたことがある。剣岳に登ったあと、思ったより早く下山できてその日のうちに東京に戻れそうだったけれども予定通り山小屋に泊まった。夜中に目が覚めたとき、外から「ぼーん、ぼーん」とボールが弾む音が聞こえてきた。最初ひとつだったボールが2つになり、その音が外から山小屋中に入ってきた。廊下から「ぼーん、ぼーん」と音がして、怖いなあと思っていたら、別の部屋の戸が開く音がして、「誰だ」という声が聞こえた。そのひとが「ぼーん、ぼーん」という音を聞いて怒鳴ったのかどうかわからないが、その後は音は聞こえなくなった。自宅に戻ってニュースを見たら、前日剱岳で2人が滑落して死んでいた。