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「十六世紀文化革命」 山本義隆


「磁力と重力の発見」のあとがきにあった宿題の答えが本書。全二巻であるが、頁は通しになっており本文737頁、索引・注・文献案内が101頁ある。本書の後に、著者は「世界の見方の転換」全三巻を上梓する。この科学史に対する著者の旺盛な意欲はどこから来るのだろうか。

管理人は「十六世紀文化革命」を物理に関係ないと思い読んでいなかった。別の本を読んでいて、「十六世紀文化革命」に言及している箇所がありこれは読まねばとなった。「世界の見方の転換」はすでに購入していたけれども、出版された順番に読んだほうが良いと思い本書を先に読むことにした。

本書は、「十七世紀科学革命」の前段階にあたる十六世紀ルネサンスにおける人文主義者以外の職人、商人や技術者等の活動に注目し、彼らがどのように「十七世紀科学革命」を準備したかを明らかにする。著者によると本書は歴史学という「アウェー」での勝負だったという。膨大な文献を渉猟し、絵画論から言語学、宗教、医学、数学、天文学と多岐わたる分野に言及していく。管理人は歴史書をあまり読まないので、ラテン語から各国の俗語へ分化していった経由については「目からウロコ」が落ちる感じだった。専門が素粒子物理学の著者がここまで十六世紀について書くというのは信じられない。

私が本書で言いたかったのは、十六世紀の段階では、むしろ職人としての芸術家や技術者にその変革のヘゲモニーがあったということ、すなわちこの変化をもたらしたものとして「十六世紀文化革命」があったということに尽きている。中世における科学と技術の断絶情況を打ち破ったのは、芸術家や職人・技術者そして外科医、さらには町の算数教室の教師や船乗りたちの学問世界への越境であった。彼らは俗語による執筆活動をとおして、ラテン語により守られていた大学アカデミズムによる知の独占に風穴をあけていったが、それはそれまでのスコラ文化にかわる新しい知のあり方を示すものであった。すなわち、彼らは自分たちの技術の秘密を文書化して公開し、それまで蔑まれてきた手仕事・機械的技芸の価値を明らかにしただけではない。そこで逢着した諸問題にたいして合理的な考察を加え、そのことによって、実験的観察と定量的測定こそが自然研究の基本的方法であるべきことを主張し、それまでの文書偏重の思弁的な学問にかわる経験重視の科学の重要性と有効性を明らかにしていったのである。
かくして、論証にもとづく定性的な自然学から測定にもとづく定量的な物理学へといたる道が拓かれ、この十六世紀文化革命が学問的世界にもたらした地殻変動のうえに十七世紀科学革命はなしとげられた。