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「階調は偽りなり 上・下」 瀬戸内寂聴


本書は「美は乱調にあり」から16年後に書かれた続編。本書巻末に解説の代わりの対談(対談相手は栗原康)があり、著者が「青春は恋と革命だ」と述べている。「美は乱調にあり」が恋の部分なら、本書は革命の部分といったところ。続編といっても本書は評伝に近く別の作品になっている感じがする。

日影茶屋事件からの始まりは、「美は乱調にあり」と重複するところがある。日影茶屋事件後は大杉栄と伊藤野枝には色恋沙汰がおこらず、次々と子供が生まれていった。そのため伊藤野枝は育児や家事に追われ、表舞台から消えている。一方大杉栄は著作に励み、労働運動にも深く関わっていく。その間、本書では辻潤や神近市子などの記述が多くなっている。結局、著者が書きたかったのは日陰茶屋事件と辻潤ではないかと勘ぐってしまう。本書で描かれている大杉栄はちょっと魅力に欠ける感じだ。

「美は乱調にあり」が途中で終わってしまった理由のひとつである甘粕正彦についてはやはり謎が残る。甘粕正彦は懲役10年の実刑を受けたが、2年10ヶ月で出獄している。大杉栄の敵を討とうとした福田大将暗殺未遂事件で、古田大次郎が死刑、村木源次郎が無期懲役となっているのに比べると量刑の差が著しい。甘粕正彦は出所後、陸軍費でフランスに渡っている。フランスから帰国後すぐ満州へ渡り、関東軍の特殊工作員として働き、満州国のフィクサー的存在となった。1945年8月20日に青酸カリで服毒自殺。本書の最初に女優の話として、甘粕正彦がパーティーにきた女優たちに青酸カリを配った話がある。