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「いやな感じ」 高見順


高見順の作品を読むのは本書が初めて。本書は小説「いやな感じ」と「いやな感じ」に関連するエッセイ・短篇が集録されている。高見順が一時期北一輝に師事していたことを本書を読んで初めて知った。関東大震災の時、高見順は朴烈が北一輝のところへ助けを求めて来たときに遭遇している。朴烈・金子文子怪写真事件の怪文書は北一輝が書いたと高見順は断定している。北一輝とアナキストとの関係は「複雑怪奇」だったらしい。

小説「いやな感じ」は俺(加柴四郎)の回想のかたちをとっている。俺は陸軍大将暗殺計画に加担したが、途中から離脱して死刑を免れたアナキスト。アナキストから右翼の壮士になり、東京、京城、根室、上海と渡り歩く主人公。読んでいる途中で、「俺」が二・二六事件に関係する行動を行うのではと思ったが、テロリストとして大きな事件に関係することがなかった。ひょんなことで初めて殺人を行ってから、上海に渡り殺人を繰り返す。最後、捕らえられた中国人の頭を軍刀で切り落とす。このとき「いやな感じ」になる。大藪春彦のハードボイルドのような感じだ。この後、人を殺さなければ「生の充実」を感じられない俺は殺し屋として生きて行くのか。いつどこで俺は回想を書いているのか。

この小説を読んでいる時、中公新書の「二・二六事件」を参照してモデルになっている人物を確認した。本書はアナキストとボル派の対立、大陸浪人と軍部の癒着、青年将校の蹶起と1930年代の日本の風俗や政治状況を上手く取り入れ面白い小説になっている。いままで知らなかったのは不覚だった。